石井哲也
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今回のコラムの舞台は、細長い路地に300軒近い飲み屋がひしめく新宿ゴールデン街のとあるBar。ここで<エロス>をテーマにしたベリーダンスショーを主催する石井哲也(イシイテツヤ)さんに、ベリーダンスならではの官能的な魅力とそのプロデュース哲学を伺いました!
@yoshiewlove
●破天荒なダンサーとプリミティブな表現に惹かれて
―僕の本職はビデオグラファ―。
1980年代インディーズ/パンクバンドのビデオ制作からはじまり、長く音楽関連の映像やイベントのディレクションを手がけてきました。今イベントを開催している新宿ゴールデン街にあるバー「クリシュナ」にたまたま飲みに入ったのをきっかけに、25年近く前からベリーダンスの映像制作にも携わっています。
―ベリーダンスの第一印象は「何だか面白いぞ」。アラブ音楽や踊りのことはよく分からなかったのですが、タカダアキコ、Mido、ノーラ、サリ、イーチャン&ミラ…etc. 次々と知り合ったダンサーたちが、揃いもそろってイイ意味で常識にとらわれない<パンク>な精神の持ち主だったんですよね(笑)。
依頼されて映像を撮っていくうちに、
踊る喜びや解放感…そんな人間の根底から湧き出るものが蠢く身体からダイレクトに伝わってくるベリーダンスそのものに惹かれるようになりました。僕は80年代ロンドン発祥のレイブカルチャーが大好きなのですが、誰に見せるわけでもなくフロアで好き勝手に踊っている人たちの何ともいえない<格好良さ>と似たものを、彼女たちの踊りから感じたんです。
●コンペやアートだけじゃない踊りがあってもいい!
―実力あるダンサーさんたちのパフォーマンスを見ていると、動きや衣装は一見媚びているようでも近づいてくる輩はぴしゃっと跳ね除けるような強さ、痛快さがあります。またこちらの想像をはるかに超えてくる自由な発想や遊び心、芸のためなら労力を惜しまない姿勢…そんな強烈な個性に触れると思わず映像を撮りたくなるし、後で撮った映像を見ると「僕のほうが彼女たちに乗せられていたんだ」と気付かされることも多いです。
…ただ近年の日本ベリーダンス界は、そうした魅力よりも「振付の正確さ」や「技術」が重視される傾向にあるような感覚があって。いまだ残るハラスメント的な視線に対して、ダンサー自身が耳障りのいい言葉でベリーダンスの本質を隠したりごまかしたりしての風潮なのでしょうか。時に競技的だったりアート的だったり、かと思えば健康的だったり…それ自体を否定するつもりはないけれど、それだけがすべてではないと思うんです。
何よりやっぱり僕は
色香漂う美しいダンサーに悩殺されたい!
そこで1年前、
<エロス>をテーマにしたベリーダンスの定期イベント「SNAKE&SLIT(@snakeandslit)」をはじめることにしました。
●提供するのはダンサーが<自身を思いきり表現>できる場
ーイメージは1940年~50年代のカイロやイスタンブールにありそうな、妖しく薄暗い異国のバー。爆音・スモーク・強い赤や青の照明・キャンドルの灯り…これらはすべて、このシリーズをはじめるにあたって店に設置をお願いしました。
@asyabellydance
―出演を依頼するのは
踊りの上手さだけではなく、さらに何かグッとくるもの…具体的には、踊っている映像を編集していて「もっと別の側面も見たい」と感じたダンサーさん。完全に僕の独断と偏見ですよ(笑)。映像で食べているのに矛盾した話ですが、必ず一度自分の目でショーを観て自分のインスピレーションが「間違ってなかった」と確信してからオファーをしています。
@heqna_orientaldance
―ダンサーさんには
「あなたが思う<エロス>を表現してください」とだけお願いしています。
その解釈や表現の仕方はその人次第。
ダンサーさんにはリラックスした状態で思いきり自分自身を表現して欲しいし、その世界観に観客がどっぷり浸かるにはそれなりの時間も必要だと思うので、時間制限などの制約も設けていません。
踊る側としても自由にパフォーマンスできる機会って意外に少ないようで、ダンサーさんからは「やりたい放題できて楽しかった」と言われることも多くて。<エロス>というテーマを掲げてこそいますが、実は見えてくるのはその人の真髄であり生き様そのもののようにも感じてます。
@9milia5
@kanakobellydance
@maha.emiuryu
●ダンサーへのチップ歓迎!来たれ日本の親父たち
―いま、ベリーダンスショーを観に行く人は女性がほとんど。これは男にしか分からないと思いますが、ホール公演の会場に行くと、デパートの化粧品売り場に迷い込んで妙に緊張してしまう、あの感じがあります。
でも、ここは飲み屋街のバーで、
毎回、DJ兼ボディガードとして僕ら男性陣もカウンター奥にいる。作法にそって礼儀正しく鑑賞するものでもないし、客としておじさんが素直かつ堂々と楽しめるショーだと自負して告知も頑張っていますが…残念ながら男性客はいまだ少数派ですね。
音楽とお酒を楽しんで、
色香漂うダンスに狙い撃ちされたら
ダンサーにスマートにチップを差し出して。
そんな洒落た光景が当たり前になれば、日本の大衆文化レベルもなかなかのもの。踊りだけで喰えるダンサーも増えていくから、業界的にも万々歳ではないかと思っているのだけど。
まだまだ日本の親父たちは照れ屋なんですかねぇ…。