一般社団法人
日本ベリーダンス連盟

コラム
2025.4.7

「今、この瞬間」を大切に!
アラブ音楽に繰り返しが多い理由

木村伸子

https://www.facebook.com/kimuranobuko

 

ベリーダンスでも踊られるアラブの名曲をじっくり聴いてみると、同じフレーズが何度も何度も繰り返され、時に演奏は1時間以上に渡ることも。エジプト留学経験のあるアラブヴァイオリニスト・木村伸子(キムラノブコ)さんにその謎を聞いてみたら、西洋音楽とはまったく異なるアラブ音楽の成り立ちやエジプト人の<人生の楽しみ方>が見えてきました…♪

 

 

●クラシック音楽に慣れた耳には…驚きの連続!

―初めてアラブ音楽を耳にしたのは2009年、歴史研究のためにカイロ大学に留学した時です。カイロ空港に降り立って、市街地へ向かう途中のタクシーのラジオから流れたオーケストラの音楽は、今にして思えばウンム・クルスームかアブドゥルハリームか何か、黄金時代のアラブ歌謡だったのだと思うのですが、何だか音程が狂っていて弦楽器のアンサンブルもバラバラな、奇妙な音楽に聴こえました。

 

私は5歳でクラシックヴァイオリンを習い始めて、大学でも古典派メインのオーケストラに所属したりと、長年西洋クラシックにどっぷりつかった生活をしていました。エジプトでもヴァイオリンを持ち込み、ホームパーティーで演奏を披露したりしていましたが、それもアラブの民族音楽に興味があったわけではなく、どちらかというと、留学先での友達作りに楽器が役に立つかもしれないという理由からです。

 

 

―アラブ音楽に興味を持ったのは、
エジプトに来て数か月たった頃。
ルームメイトの友人の友人という形で、同じく当時カイロに留学中だった太鼓奏者のアブダッラー(@abdallahahmed_japan)さんと知り合い、「何か一緒に演奏しよう」ということになって彼から『Aziza』の譜面と音源を渡されました。

 

譜面だけ見ると、これまで演奏してきたチャイコフスキーやらメンデルスゾーンやらに比べたらはるかに簡単だったので、
「こんなのすぐに弾けるだろう」
と思いながら音源を聴いてみたところ、譜面をそのまま弾いた音とは似ても似つかない、エキゾチックな演奏に私は驚愕しました。

 

また、なんとか耳で音源の演奏をコピーしようとしても、まったく音源を再現できないことにも驚かされました(もともと耳コピーはすごく得意なはずなのですが…)。

 

 

―このとき、アラブの音楽が、五線譜には表れない何らかの複雑なシステムを持っていること、初めて聴いた時に「ズレている?」と感じた音程はアラブ独自の絶妙な音程だったこと、アラブのヴァイオリニストは非常に高度な、かつ私にはまったく未知の技術を駆使しているということに気付かされました。

 

●アラブ音楽の中心は、詩を伝える<歌手>

-その後、アラブ音楽を本格的に学ぶようになり分かったのは、そのベースは<詩>にあるということ。アラビア語が持つ韻やリズム、長く受け継がれてきた詩の節回しに合わせて、詩の詠み手にあたる<歌手>がウードを弾きながら唄い、そこにレクやカーヌーンなど他の楽器が伴奏に加わるような形で<旋律>が生まれました。

 

―それが大編成のオーケストラとなっても、中心で演奏をつかさどるのは歌手であることには変わりはありません。
例えば歌手が立ち上がるタイミングに合わせて歌い出しを調整したり、歌手がもう一回歌いたいと思えばそれに合わせて何度も繰り返し演奏したり…往年のウム・クルスームの映像からも、楽団のメンバーが空気を読みながら、彼女に合わせて臨機応変に対応しているのが分かります。

 

 

―時には歌手の指示にすぐ対応できずタイムラグが生じることもあります。でも観客側にそれが「ミス」という認識は一切なく、「素晴らしいフレーズをもう一度味わえる」喜びでむしろ盛り上がる! 演奏する側も単なる繰り返しではなく、リピートするほどに場を盛り上げていける引き出しの多さやパワー、瞬間的な対応力があります。これもまた、彼らの素晴らしいところだと感じます。

 

●私たちにも身近な「今を大切に」という感覚

―私はカイロの芸術アカデミー(日本の「芸術大学」にあたる国立機関)の学生オーケストラに一時所属していたことがあるのですが、定期コンサートでは、コンサートマスターの鶴の一言で「今日は○○が受けそうだから」と、当日の舞台上でプログラムが突然変更されることもしばしばありました。

 

知らない曲を演奏することになり
戸惑う私に
隣のヴァイオリン奏者は
にこやかに
「大丈夫!僕たちみんな知ってるから!」と。

 

「これがエジプト流か!」と思いながらしばらくは弾く真似をしつつ、同じフレーズが2周、3周したあたりからおもむろに演奏に混じる形で何とかのりきるという、忘れられない経験をさせていただきました。

 

―これは音楽に限ったことではありませんが、
エジプトではあらかじめ決まったルールやスケジュールではなく、誰もが<今>にフォーカスして生きています。

 

約束の時間に現れなかったり、
決まり事を守らなかったり。
真面目な日本人からすると戸惑うことも多いですが、けっして悪気があるわけではなく、
彼らは「今、この瞬間」を大事にしているだけ。

 

これは私たちが旬や自然の産物…
例えば<お花見>を大事にする感覚に似ているように感じています。

 

桜がいつ咲くかは分からないし、
いつ雨が降って散ってしまうかもしれない。
 ↓ 
だから桜が満開になった今日は、仕事を休みにしてお花見に行こう!

 

桜は毎年咲くけれど
やっぱり美しいし何度でも見たいと思いますよね。

 

そう考えると、繰り返されるアラブ音楽のフレーズに観客が熱狂する理由も共感できるような気がしませんか???

 

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