2024年3月の日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の会議にて、フリーランスの芸能実演家の社会保障に関する中間提言が共有されました。
これは、ダンサーを含むフリーランスの芸能実演家が、労災保険や失業保険などの社会保障を受けられるようになる世の中の実現を目指すものです。
芸団協の一員である私ども日本ベリーダンス連盟も、この趣旨に賛同し、連盟会員の皆様が安心して活動に打ち込めるための支援に力を尽くしたいと考えています。
この記事では、今回の中間提言が皆様の生活とどう関わってくるのか、日本ベリーダンス連盟が皆様に何ができるのかについて解説していきます。
【フリーランスの待遇の今までとこれから】
ダンサーなどの芸能実演家の多くは、サラリーマンやアルバイト・パートスタッフのように組織に雇われるのではなく、個人として仕事を行いお金を頂く「フリーランス」の業態をとっています。連盟会員の皆様にも、個人事業主として確定申告をされている方が多いかと思います。
これまで、こうしたフリーランスの事業者は、社会的に手厚く守られているとは言えませんでした。組織に雇われて働いている人であれば、仕事が原因で怪我や病気をすれば労災補償を受けられますし、会社都合や自己都合で仕事を失うことになった際にも、一定の失業保障を受けることができます。しかし、フリーランスには原則、そうしたセーフティネットは設けられていません。そのことで苦い思いをされた方も少なくないでしょう。
コロナ禍においても、イベントの中止や教室の休業など、社会の要請によって仕事を休むことを余儀なくされながら、飲食店のような休業補償を受けることもできず、納得できない思いをされた方が多かったかと思います。
しかし、近年、フリーランスを取り巻くこうした状況は、少しずつですが変わりつつあります。
2021年度には、日本ベリーダンス連盟を含む実演家団体の要望が功を奏し、ダンサーのような芸能活動の従事者にも、労災保険の特別加入(後述)が認められるようになりました。さらに、2024年秋には、フリーランス新法が施行され、全業種のフリーランスに労災保険の特別加入が認められる予定です。
これはフリーランスの待遇改善にとって大きな一歩ですが、この機会を万全に活かすためには、日本ベリーダンス連盟のような芸術職能団体が中心に立った制度作りが欠かせません。
今回の芸団協の中間提言は、ジャンルごとの芸術職能団体と、舞台・映画などの制作事業者団体が協力して、フリーランスの待遇を支える「互助プラットフォーム」を立ち上げるというものです。これが実現すれば、労災保険への特別加入をはじめ、様々な社会保障が受けやすくなることが見込まれます。
芸団協では、今後1年をめどに、さらに検討を重ね、より具体的な互助の仕組みの提案を行うとしています。日本ベリーダンス連盟もその一員として、会員の皆様の活動支援に努めてまいります。
【労災保険の特別加入とは? どんな補償が受けられる?】
労災保険とは、仕事が原因で生じた怪我や病気について、一定額の補償が受けられる制度です。
労災というと、建設現場や工場のような危険な職場を連想するかもしれませんが、オフィス勤めのサラリーマンや、お店などのアルバイト・パートスタッフなど、業種・職種を問わず、雇用されて働いている全ての人が加入の対象となっています。雇用されている人は、その時点で自動的に労災保険に加入しており、保険料も雇い主(会社・お店など)が全額負担しているため、日頃その存在を意識する人は少ないかもしれません。
一方、フリーランスの場合、誰かに雇われているわけではないため、原則として労災保険への加入はできませんでした。しかし、働き方の多様化に伴って、近年ではフリーランスにも「特別加入」が認められ、自身で保険料を負担すれば、任意で労災保険に加入できるようになりました。
ダンサーを含む芸能従事者については、日本ベリーダンス連盟を含む複数の実演家団体が政府に要望し続けてきたこともあり、2021年4月からこの特別加入が認められています。
労災保険に特別加入すれば、業務中や通勤中に怪我や病気をしてしまった場合、治療費や休業補償などの給付を受けることができます。ダンスの実演中やレッスン中はもちろんのこと、仕事のための移動中に事故に遭った場合でも補償の対象になります。
受けられる補償の種類には、例えば以下のようなものがあります。
・休業補償給付:4日以上仕事ができなくなった場合。
・障害補償給付:仕事上の事故や病気により、一定の障害が残った場合。
・遺族補償給付:仕事上の事故や病気により死亡した場合。
労災保険に特別加入する場合、保険料は一定の範囲内から自分で決めることができます。支払う保険料が多ければ、そのぶん、万一の際に受け取れる給付金も高額になります。
このように、フリーランスにとって便利な特別加入制度ですが、芸能関係の特別加入者は、2021年度末時点でわずか564人にとどまっています。制度自体があまり知られていないことに加えて、「特別加入団体」を通じて加入手続きをしなければならず、入会金や会費の負担がハードルとなっていることが理由と考えられます。
このたびの芸団協の中間提言では、「互助プラットフォーム」の立ち上げを通じて、より多くの方がこの労災保険の特別加入を利用しやすくすることを目指しています。
もちろん、ベリーダンスに携わる皆様に関しては、芸団協の一員である日本ベリーダンス連盟がプラットフォームの窓口となることで、特別加入の利用をサポートしていきたいと考えています。
【休業補償や職業証明など、他にも多くのメリットが生じる!】
このたびの芸団協の中間提言には、労災保険への特別加入の他にも、芸能実演家が社会で生きやすくなるための様々な改善案が盛り込まれています。
例えば、フリーランスの待遇を支える「互助プラットフォーム」の役割には、失業・休業時の保障制度に関する検討も含まれています。これが実現すれば、労災補償だけでなく、仕事が大きく減ってしまった際や、仕事から離れざるを得なくなった際にも、サラリーマンの失業保険のような給付金が受け取れるようになる可能性があります。
また、この「互助プラットフォーム」への加入は、同時に芸能実演家の職業証明としても機能することが期待されています。コロナ禍の際、芸術家向けの補助金を貰うための活動証明に苦労された方もおられるかと思いますが、今後は「互助プラットフォーム」に加入していることがそのまま芸能実演家の職業証明になり、万一の際の給付金などもスムーズに受け取れるようになると考えられます。
なお、芸術活動での収入が少なかったり、他に本業を持っていたりして、必ずしもプロフェッショナルとは名乗りづらいという方についても、芸団協では積極的に芸術家と認定し、「互助プラットフォーム」の加入対象としていく方針とされています。日本ベリーダンス連盟もその趣旨に沿って、ベリーダンスに携わる全ての皆様の助けになりたいと考えています。
このように、日本ベリーダンス連盟を含む各団体が根気強く政府機関に要望し続けてきたことにより、ダンサーのような芸能実演家を取り巻く社会の状況は、少しずつ良い方向に変わり始めてきました。
将来的には、フリーのダンサーでもサラリーマンと同じような保障が受けられるのが当たり前になり、多くの方が安心して芸術活動に打ち込めるようになるでしょう。そうした世の中が少しでも早く実現するように、日本ベリーダンス連盟は、ベリーダンス統括団体として、今後も関係団体と連携し、力を尽くしていく所存です。