岡本哲雄
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ロマンチックなラブソングも楽しいシャービーも…歌詞入りの曲はやっぱり意味を理解して踊りたいもの! ダンサー向けに2010年頃からアラビア語歌詞の翻訳サービスを手がける岡本哲雄(オカモトテツオ)さん。依頼内容の変遷を伺ったら、ベリーダンスで踊られる曲の<トレンド>が見えてきました!
●言葉、文化、生活様式…エジプトの友人から多くを学んだ!
―1996年から約13年間、エジプト・カイロに住んでいました。アラビア語はまったく分からなかったのでまず現地の語学学校に通い、積極的にエジプト人の友達を作ったり、時には彼らに家庭教師をしてもらったりしながらじょじょに覚えていきました。彼らからはアラビア語だけでなく、考え方や人との接し方、ちょっとしたジョーク…エジプトで暮らしていく上で欠かせない生活の知恵をたくさん教えてもらえました。おかげでそこまで苦労することなくエジプト人コミュニティになじむことができたように思います。
ーある程度アラビア語を習得した後はカイロ市内の旅行会社に就職し、日本人向けの個人ツアー手配やトラブル時のサポート業務を担当。ナイル川のディナークルーズはじめベリーダンスショーは、仕事で何度も観たことがありますよ。
―2009年に日本へ帰国した後はまったく別の仕事に就いたのですが、せっかく習得したアラビア語を忘れたくなかったので、<副業>としてベリーダンスで踊られる曲の翻訳サービスをはじめてみることにしました。
●当初はエジプトの有名曲がメインでした
ーウム・クルスームやアブデル・ハリム・ハーフェズらのクラシックソングをベリーダンス向けにカバーした曲やサード エルソガイヤルのシャービーソングetc.
2010年代前半は、ワークショップで習った曲を「ショーで踊りたいから」「レッスンで扱いたいから」と依頼されることが多かったです。
―翻訳する際は一文ずつ。
・歌っているのは男性か女性か
・クラシックソングかシャービーか
で日本語の言葉使いを変えたり、言葉の裏に隠れされた意味まで記載したり…ただ歌詞を直訳するだけでなく、歌の世界観をできる限り丁寧にお伝えするよう心がけています。
ー「踊る曲と聴く曲は別」と知ったのは、
この仕事をはじめてからのこと。
ベリーダンス用のカバー曲はパーカッションが強く、なかには原曲とはまったく別の曲のように聴こえるものがあります。そこで本来の曲の世界観を理解する手助けになればと、カバー曲を翻訳した際は必ず原曲のYoutubeアドレスも添付しています。
―またアラビア語圏ゆえの難しさを感じることもあります。
残念ながらこの地域には今もなお政情不安定な国々があり、ダンス向きの曲調でも政治的主張や戦争を歌った曲が多数あります。合わせて宗教に関する内容の曲も、<楽しむためのダンス音楽>として適してるとは思えません。
このほか「一発当てて成り上がるぜ」といった内容のマハラガンや、何気ない歌詞のようで実は性的な隠語を多用したシャービーなども<女性が踊る曲>としては疑問に思うので、分かった時点で「このまま翻訳を続けるか否か」を必ず依頼主に確認するようにしています。
●コンペ人気とともに…ロマンチックソングの依頼が急増!
―依頼数が急増したのは2017年頃。
「コンペで踊りたくて」
と納品〆のあるご依頼が目立つようになりました。
合わせて、
エジプトの曲だけでなく、
<ロマンセイヤ(ロマンチックソング)>と呼ばれる、レバント地方(レバノン・ヨルダン・シリア・パレスチナ)のラブソングの翻訳依頼が増えています。
ー<ロマンセイヤ>の特徴は、
伝統的なアラブ音楽よりも
曲調が西洋寄りなこと。
代表的な歌手は
レバノン出身のワエル・クフ―リー!
彼は「ロマンスの王」と呼ばれ、
いまレバント地方だけでなくアラブ全域で大変な人気があります。
…エジプトでは昔から友人同士の会話では
「今、好きな人がいるの♪」という意味で
「アブデル・ハリームを聴いているの」
というフレーズが使われます。
そんな長年ラブソングの代名詞存在であったアブドゥル・ハリム・ハーフェズの立ち位置に、現在はワエル・クフ―リーが君臨しているようですね。
―その他、ここ数年人気があるのは、音楽プロデューサーでもあるアブーのデビュー曲「タラ―ト・ダカット」。2024年に入ってからは、コミカルな映画挿入歌「サタラーナ」も多数ご依頼いただきました。
●歌詞の翻訳を通じて新たな出会いがたくさん!
―時にはダンサーさんからワークショップの通訳を頼まれたり、エキストラとして舞台デビューしたり…アラビア語のおかげで、思ってもみなかった面白い経験をすることができました。
―実はエジプトに住んでいたときは
音楽はあまり詳しくなくて、
*ウム・クルスーム
*ワルダ
*アブデル・ハリーム・ハーフェズ
*アムル・ディアーブやハキームなど当時のヒット曲
くらいしか知らなかったんです(笑)。
素晴らしいアラビア語の曲に
たくさん出会うことができたのは、
翻訳を依頼してくださる
ダンサーさんたちのおかげ。
私はベリーダンスショーを観に行く機会も多いのですが、自然なジェスチャーをまじえたりしながら翻訳した曲をダンサーさんが素敵に表現してくれるのを見ると本当に嬉しいんですよ!